➅交差適合試験(クロスマッチ)
- クロスマッチは,患者と輸血用血液製剤(供血者)との適合性を確認する輸血前の重要な検査である。主な目的は,不適合輸血を防ぐためにABO血液型の適合性を再確認することと37℃で反応する臨床的意義のある不規則抗体や低頻度抗原に対する抗体を検出することである。
- より安全な輸血をおこなうためには,あらかじめ不規則抗体スクリーニング検査をおこなうことが望ましい。
- ダラザレックス(一般名:ダラツムマブ)は 「多発性骨髄腫」 に効果を示す薬剤であり,ヒト型IgG1κモノクローナル抗体で,CD38に結合し,抗腫瘍効果を示します。
- 治療中及び最終投与後6ヶ月以内の患者に輸血をする場合,間接抗グロブリン試験,クロスマッチにおいて,患者血清中のダラツムマブが検査赤血球用表面のCD38に結合することで,偽陽性を示すことがあります。(ABO・Rhの判定には影響ありません)
- よって,治療を行う前は,治療開始前に輸血前検査を実施しておくことが必要になります。多発性骨髄腫の患者に輸血する場合は,ダラツムマブ治療歴があるかについて主治医と連携をとる必要があります。
- クロスマッチが陽性になった時の進め方を図3に示した。
- コンピュータクロスマッチとは,あらかじめABO血液型,RhD抗原型検査と抗体スクリーニング検査により,臨床的に問題となる抗体が検出されない場合には,クロスマッチを省略し,ABO血液型の適合性を確認することで輸血は可能となる。
- 以下の各条件を完全に満たした場合にコンピュータを用いて上述した適合性を確認する方法であり,人為的な誤りの排除と,手順の合理化,省力化が可能である。あらかじめ実施された下記の検査結果や過去の検査履歴に基づき,コンピユータを用いて適合性や安全を確認する方法である。
- コンピユータクロスマッチ実施に必要な検査結果は上記①~③であるが,クロスマッチを省略できる条件の三つは 「輸血療法の実施に関する指針」 と同じであり,以下の条件が必須となる。
- クロスマッチは輸血の実施が可能かどうかを判断する最も重要な検査であるが,同時にクロスマッチに限界があることを認識する必要がある。交差適合試験に用いる赤血球製剤の赤血球は,不規則抗体検査に使用される赤血球と違いホモ接合体かヘテロ接合体かの区別がつかない(詳細は,HPの4Pを参照)。ヘテロ接合体の場合は赤血球上の抗原量が少なく,この場合は量的効果により低力価の抗体を検出することができないことがあり,クロスマッチが陰性となる。
- 従って,可能な限りクロスマッチに先立ち不規則抗体スクリーニング検査を実施することが望ましく,主試験では最も感度が良いと言われている抗IgG試薬と反応増強剤にPEGを用いることが最善と考える。緊急時やクロスマッチと不規則抗体検査が同時に実施できない施設においては,後追いで不規則抗体スクリーニング検査を実施し,輸血後のDHTRの可能性についてチェックすることが必要になってくる。
クロスマッチの検体(血漿・血清)は,原則としてABO血液型検査検体とは別の時点で採血された輸血予定日に先立つ3日以内のものを用いる必要がある。連日にわたって輸血を受けている患者では,少なくとも3日ごとに検査用検体を採血する。
検体は不活化してはならない。また,溶血した検体は使用しない。
主試験:患者血清(血漿)+輸血用血液(供血者)赤血球 (生食法,間接抗グロブリン試験(IAT))
副試験:輸血用血液(供血者)血漿+患者赤血球 (生食法)
クロスマッチの一般的な検査方法について図1に示した。
・患者のABO型が2回以上異なる時点で採血された検体で二重チェックされている場合
・血液センターから供給される血液製剤を用いる場合
・抗体試薬を用いて抗原陰性を確認した輸血用血液製剤
・血液センターから供給された抗原陰性血
ポイント・・・血液センターへの適合血の供給依頼に関しては,余裕を持って依頼する。
原則として,主試験の結果がIATにて陰性の場合のみを適合とする。
低頻度抗原に対する抗体は必ずしも不規則抗体検査で検出されるとは限らない。その場合は,最寄の血液センターへ相談する。
輸血歴や妊娠歴のある患者は,直近の輸血によって新たに不規則抗体を産生することがある。主試験が陽性になった場合には,自己対照とともに主試験を再検査する。また,必ず不規則抗体スクリーニングも実施する。
不規則抗体とクロスマッチの結果の解釈について表1に示した。
表1 不規則抗体とクロスマッチ結果の解釈 | |||||
不規則抗体 | クロスマッチ(主試験) |
解釈 | |||
- | - | 適合 | |||
+ | - |
ドナー: |
対応する抗原(-) 偽陰性(量的効果のある抗体) |
※1 |
|
+ | + |
ドナー: |
対応する抗原(+) |
※2 | |
- | + |
ドナーあるいは患者: |
ABO型違い |
||
ドナー: 患者 : |
DAT(+) 低頻度抗原に対する抗体(+) |
※3 ※4 |
『赤血球型検査ガイドライン(改訂3版)』 では,患者の血液型検査が適切(異なる時点で採取された検体での二重チェック)におこなわれており,血液センターの血液を使用する場合は,副試験を省略しても良いとなっている。しかし,汎凝集反応すなわち重症感染症や壊死性腸炎を引き起こしている場合には,状況に合わせて副試験を実施する必要がある(詳細はHPの2Pを参照)。重症感染症患者の赤血球は汎凝集反応を起こす場合があり,クロスマッチの副試験が唯一確認できる方法である。汎凝集反応が確認された場合には血漿成分の輸血は禁忌とされており,循環血液量の少ない小児の場合には特に注意が必要である。
生後4ヶ月以内の児においは,原則としてABO同型赤血球製剤を用いて主試験をおこなう。クロスマッチは児の血液を用いておこなうが,新生児で採血が極めて困難な場合,以下の条件を満たせば母親の血液で代用することができる。
●母親のABO血液型が同型の場合
●児がO型もしくは母親がAB型の場合
生後4ヶ月未満の児で,主試験が陽性の場合は以下のことを考慮する。
●O型以外の赤血球を用いた場合は母親由来の IgG型抗A/抗Bの存在
●母親由来の不規則抗体の存在
●まれに児が産生した不規則抗体
偽陽性反応の機序を図2に示します。
① ABO血液型,RhD血液型
② 不規則抗体陰性
③ 不規則抗体保有歴が無い
ポイント・・・量的効果を示す抗体に関しては,クロスマッチのみでは検出できないことがあるため,事前に不規則抗体検査を実施することで防ぐことができる。
一般的に,輸血はABO及びRhDのみを合わすため,他の赤血球抗原により免疫感作され同種抗体が産生される可能性がある。
患者が元々保有している不規則抗体が検出感度以下になっている場合は,適合とされた赤血球に該当抗原があれば,二次免疫起こしDHTRを発症することがある。
当然の事ながら,白血球,血小板,血漿タンパクなどに対する同種抗体は検出できない。
検出法が適切でなければ抗体は検出されず,またすべての赤血球抗体が検出されるとは限らない。
また,患者血清(血漿)や試薬の入れ忘れ,操作の未熟による不適合反応の見逃しは発見できない。
日々、輸血業務に携わる先生方のために、日本臨床が検査を
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クロスマッチは,患者と輸血用血液製剤(供血者)との適合性を確認する輸血前の重要な検査である。主な目的は,不適合輸血を防ぐためにABO血液型の適合性を再確認することと37℃で反応する臨床的意義のある不規則抗体や低頻度抗原に対する抗体を検出することである。
より安全な輸血をおこなうためには,あらかじめ不規則抗体スクリーニング検査をおこなうことが望ましい。
1)検体
クロスマッチの検体(血漿・血清)は,原則としてABO血液型検査検体とは別の時点で採血された輸血予定日に先立つ3日以内のものを用いる必要がある。連日にわたって輸血を受けている患者では,少なくとも3日ごとに検査用検体を採血する。
検体は不活化してはならない。また,溶血した検体は使用しない。
2)方法
患者血清(血漿)+輸血用血液(供血者)赤血球(生食法,間接抗グロブリン試験(IAT))
輸血用血液(供血者)血漿+患者赤血球(生食法) クロスマッチの一般的な検査方法について図1に示した。
3)検査上の注意点
-ポイント-
原則として,主試験の結果がIATにて陰性の場合のみを適合とする。
-ポイント-
主試験とともに自己対照が陽性になった場合は,新たに同種抗体が産生された可能性がある。遅発性溶血性輸血副作用(DHTR)の可能性を考慮し対処する必要がある(詳細はHPの8Pを参照)。
低頻度抗原に対する抗体は必ずしも不規則抗体検査で検出されるとは限らない。その場合は,最寄の血液センターへ相談する。
輸血歴や妊娠歴のある患者は,直近の輸血によって新たに不規則抗体を産生することがある。主試験が陽性になった場合には,自己対照とともに主試験を再検査する。また,必ず不規則抗体スクリーニングも実施する。
不規則抗体とクロスマッチの結果の解釈について表1に示した。
表1 不規則抗体とクロスマッチ結果の解釈 |
|||||
不規則抗体 |
クロスマッチ |
解釈 |
|||
- |
- |
適合 |
|||
+ |
- |
ドナー: |
対応する抗原(-) |
※1 |
|
+ |
+ |
ドナー: |
対応する抗原(+) |
※2 |
|
- |
+ |
ドナー |
ABO型違い |
||
ドナー: 患者 : |
DAT(+) 低頻度抗原に対する抗体(+) |
※3 |
『赤血球型検査ガイドライン(改訂3版)』 では,患者の血液型検査が適切(異なる時点で採取された検体での二重チェック)におこなわれており,血液センターの血液を使用する場合は,副試験を省略しても良いとなっている。しかし,汎凝集反応すなわち重症感染症や壊死性腸炎を引き起こしている場合には,状況に合わせて副試験を実施する必要がある(詳細はHPの2Pを参照)。重症感染症患者の赤血球は汎凝集反応を起こす場合があり,クロスマッチの副試験が唯一確認できる方法である。汎凝集反応が確認された場合には血漿成分の輸血は禁忌とされており,循環血液量の少ない小児の場合には特に注意が必要である。
生後4ヶ月以内の児においは,原則としてABO同型赤血球製剤を用いて主試験をおこなう。クロスマッチは児の血液を用いておこなうが,新生児で採血が極めて困難な場合,以下の条件を満たせば母親の血液で代用することができる。
生後4ヶ月未満の児で,主試験が陽性の場合は以下のことを考慮する。
ダラザレックス(一般名:ダラツムマブ)は 「多発性骨髄腫」 に効果を示す薬剤であり,ヒト型IgG1κモノクローナル抗体で,CD38に結合し,抗腫瘍効果を示します。
治療中及び最終投与後6ヶ月以内の患者に輸血をする場合,間接抗グロブリン試験,クロスマッチにおいて,患者血清中のダラツムマブが検査赤血球用表面のCD38に結合することで,偽陽性を示すことがあります。(ABO・Rhの判定には影響ありません)
よって,治療を行う前は,治療開始前に輸血前検査を実施しておくことが必要になります。多発性骨髄腫の患者に輸血する場合は,ダラツムマブ治療歴があるかについて主治医と連携をとる必要があります。
偽陽性反応の機序を図2に示します。
検査で陽性になった時の進め方を図3に示した。
コンピュータクロスマッチとは,あらかじめABO血液型,RhD抗原型検査と抗体スクリーニング検査により,臨床的に問題となる抗体が検出されない場合には,クロスマッチを省略し,ABO血液型の適合性を確認することで輸血は可能となる。
以下の各条件を完全に満たした場合にコンピュータを用いて上述した適合性を確認する方法であり,人為的な誤りの排除と,手順の合理化,省力化が可能である。あらかじめ実施された下記の検査結果や過去の検査履歴に基づき,コンピユータを用いて適合性や安全を確認する方法である。
① ABO血液型,RhD血液型
② 不規則抗体陰性
③ 不規則抗体保有歴が無い
コンピユータクロスマッチ実施に必要な検査結果は上記①~③であるが,クロスマッチを省略できる条件の三つは 「輸血療法の実施に関する指針」 と同じであり,以下の条件が必須となる。
-ポイント-
-ポイント-
量的効果を示す抗体に関しては,クロスマッチのみでは検出できないことがあるため,事前に不規則抗体検査を実施することで防ぐことができる。
一般的に,輸血はABO及びRhDのみを合わすため,他の赤血球抗原により免疫感作され同種抗体が産生される可能性がある。
患者が元々保有している不規則抗体が検出感度以下になっている場合は,適合とされた赤血球に該当抗原があれば,二次免疫起こしDHTRを発症することがある。
当然の事ながら,白血球,血小板,血漿タンパクなどに対する同種抗体は検出できない。
検出法が適切でなければ抗体は検出されず,またすべての赤血球抗体が検出されるとは限らない。
また,患者血清(血漿)や試薬の入れ忘れ,操作の未熟による不適合反応の見逃しは発見できない。
クロスマッチは輸血の実施が可能かどうかを判断する最も重要な検査であるが,同時にクロスマッチに限界があることを認識する必要がある。交差適合試験に用いる赤血球製剤の赤血球は,不規則抗体検査に使用される赤血球と違いホモ接合体かヘテロ接合体かの区別がつかない(詳細は,HPの4Pを参照)。ヘテロ接合体の場合は赤血球上の抗原量が少なく,この場合は量的効果により低力価の抗体を検出することができないことがあり,クロスマッチが陰性となる。
従って,可能な限りクロスマッチに先立ち不規則抗体スクリーニング検査を実施することが望ましく,主試験では最も感度が良いと言われている抗IgG試薬と反応増強剤にPEGを用いることが最善と考える。緊急時やクロスマッチと不規則抗体検査が同時に実施できない施設においては,後追いで不規則抗体スクリーニング検査を実施し,輸血後のDHTRの可能性についてチェックすることが必要になってくる。
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